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あまあまな後輩×先輩♡
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オリジナルBL小説

気になる彼の中には 第3話|BL小説

「とりあえず、こいつに名前つけようぜ」

 そう提案すると、伊坂は「ああ……名前か」と呟いた。

「吸盤あるし、タコみたいだから……スルメとか」

「スルメはイカだろ」

 即座にツッコむと、伊坂は目を細めた。
 人を小馬鹿にする時の顔だ。

「細かいことはいいんだよ。な、スルメ」

伊坂のシャツの中で、もぞ、と何かが動く。

「……気に入ってるみたい」

 腹のあたりに手を置いたまま、伊坂が言う。

 そのまま、目が合った。

 どちらともなく、笑う。

「なんか……」

 言いかけて、言葉が止まる。

「なんか、ね」

 伊坂もそれ以上言わない。

 でも分かる。

 同じことを思った気がした。

 ――夫婦の会話みたいじゃね?

 その後、少しだけ変な沈黙が落ちた。

 意識してしまったみたいに。

「最悪だよ」

 伊坂は誤魔化すように笑って立ち上がる。

 俺は少し遅れて立った。

 目を合わせないまま。

 ――最悪、か。

 俺はむしろ。

 この状況がそうさせるのか、伊坂への気持ちは膨れるばかりだった。


 教室に戻ると、いつもの昼休みの空気が広がっていた。

 机をくっつけて話すやつ、丸めた紙でキャッチボールをして遊ぶやつ。

 けれど、俺と伊坂が入った瞬間、数人がニヤニヤした。

「お、カップルだ」

「今日はどこでイチャついてきたの?」

「違うわ!」

 反射的にツッコむと、横で伊坂が小さくため息をついた。

「お前のせいだからな」

「いや俺!?」

 そんなことを言い合いながら席につく。

 そのとき。

 ぬるっ。

「……?」

 机の下で、足首に何かが触れた。

 スルメだ。

 細い腕が、絡みついてくる。

 ぺた、ぺた、と吸盤が肌に吸いついた。

「おい」

 小声で伊坂を呼ぶ。

「スルメ出てる」

「え?」

 伊坂の顔が一瞬固まる。

 触手はそのまま、足をなぞるように動く。

 くすぐったい。

 ……だけじゃない。

 妙に感覚が残って──

「おい、ここじゃダメだって」

 声を抑えて言う。

 伊坂は周囲をさっと確認すると、椅子を寄せて距離を詰めた。
 背もたれに肘をつき、俺と談笑している風を装う。

 その影で、スルメの動きを隠す。

 スルメは楽しそうに、俺の足をなぞっている。

 完全に遊んでいる。

「……おい、スルメ」

 小さく呼ぶ。

「今はダメ。あとで相手してやるから」

 一拍、間があってぴたり、と止まった。

 それから、するりと引いていく。

 伊坂のシャツの中へ戻っていった。

 やっぱり。

 俺の言うことを聞こうとする。

 そう視線で伝えると、伊坂は少しだけ眉を寄せた。

「なんで町田の言うことは聞くんだよ」

 その拗ねたような言い方に、思わず口元が緩んだ。

「なに笑ってんだよ」

 伊坂が睨む。

 そのとき。

「やっべー、俺聞いちゃいましたー!」

 隣の席のやつが、急に大きな声を出した。

「“今はダメ。あとで相手してやるから”って町田が!」

 ──あ。

「マジでそういう関係じゃん!」

「やば、昼間からかよ!」

 周りが一気に騒ぎ出す。

「あー、もう!うるせー!」

 頭をかきながら立ち上がる。

 そのまま、からかってきたやつに飛びかかる。

 気づけば、軽く組み合っていた。

 笑い声と野次。

 肩を押さえつけながら、ふと視界が揺れる。

 そのとき。

 教室を出ていく伊坂の背中が見えた。

 声をかけようとして――

 その一瞬で体勢を崩され、床に倒れ込んだ。


 結局、チャイムが鳴るまで騒いでいた。

 伊坂はいつの間にか席に戻っていて、なんとなく声をかけるのが躊躇われた。

 放課後。

 俺は図書室にこもった。

 パソコンの画面を、ひたすらスクロールする。

 赤いビー玉。

 寄生。

 触手。

 それっぽい単語を並べて検索するけど、出てくるのはどうでもいい話ばかりだ。

「……何もねぇか」

 小さく息を吐く。

 椅子にもたれて、天井を見上げる。

 静かだ。

 今日の出来事全てが噓みたいに。

 結局、今日はあれから一言も喋っていない。

 そりゃ嫌だよな。伊坂からしたらさ。
 ああやって、からかわれるの。

 分かってたのに。

 追いかければよかった。
 なのに、目の前のくだらないことに流されて笑ってた。

「……バカだな」

 ぽつりと呟く。

 やっぱり俺といない方が、あいつは楽なんじゃないか。

 そんな考えが、頭から離れない。

 だから。

 せめて理由がほしかった。

 調べたって言えば、話しかける口実になる。
 必要だって、思ってもらえるかもしれない。

 俺じゃないとダメだって。

 ――思わせたかった。

 でも。

 結局、何も見つからない。

 手を止めて、画面を閉じる。

 静かな部屋に、自分の呼吸だけが残る。

「あの……」

 声をかけられた。

 顔を上げると、上級生らしい男子が立っている。

 どこか警戒しているみたいに、机一つ分距離を取っている。

「もう、閉めますけど……」

「あ、すいません。今出ます」

 パソコンの電源を切り、出口へ向かった。

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