RJ01144603_img_main

見出しレイヤー

あまあまな後輩×先輩♡
previous arrow
next arrow

オリジナルBL小説

壊したのはお前だ 第3話|BL小説

 次の日になれば、絵のことを何か言われると思っていた。
 からかわれるか、要求されるか、あるいは──。

 だが新垣は、何も言ってこなかった。

 翌日も、その次の日も。

 ただいつも、視線だけは感じる。

 教室の隅から。
 背中に、首筋に、横顔に。

 ──見られている。

 ぞわ、と肌が粟立つ。
 振り向くと、目が合う寸前で逸らされる。

 話しかけてこないくせに。
 そもそも今までろくに会話もしていない。
 仲がいいわけでもない。
 何も言ってこなくて当然だ。

 なのに、落ち着かない。

 絵を描くために見ているのか。
 もう描き終えたのか。
 どんな絵なのか。
 なぜ自分なのか。
 まさか誰かに見せるつもりじゃないだろうな。

 見せる相手なんて、この学校にいるとは思えない。
 それでも――考え始めると止まらなかった。


 放課後。

 気づけば、自分から声をかけていた。

「……新垣。前に言ってた俺の絵って……誰かに見せたりするの?」

「しないよ。そんなこと」

 顔も上げない。
 机に向かったまま、鉛筆だけが動いている。
 淡々とした声。

 普段あれだけ見てくるくせに。

「じゃあ、なんで描くんだよ」

 鉛筆が止まる。

 それから、ゆっくりと顔が上がった。

「……話しかけてきたってことは、この前の件、“いいよ”ってこと?」

「違っ」

 即座に否定する。

「口の中、見せて」

 真正面から、視線が突き刺さった。

「……絵に必要なの?」

 新垣は黙って頷いた。

 喉が渇く。
 舌が上顎に張りつく。

「……やっぱ無理。恥ずかしいし」

 視線を逸らした、その瞬間だった。

 距離が消えた。

 顎を掴まれる。

 指先が骨に食い込み、逃げる方向を封じる。
 触れられているのは顎だけなのに、身体ごと支配された気がした。

「こうするの。“あ”って」

 新垣が口を開ける。
 無機質な見本だ。

 反射的に、真似てしまう。

「もっと大きく開いて」

 命令口調ではない。
 だが、逆らえない響きだった。

 心臓が跳ね上がる。
 制服のボタンを強く握りしめた。

 何を見られているのか分からない。
 何を思われているのかも分からない。

 ただ――覗き込まれている。
 口の中を。奥まで。

「……やっぱり」

 顎から手が離れる。

「口の中、綺麗だね」

 無感情で、歯医者さんみたいな言い方だと思った。

 それだけ言うと、新垣は何事もなかったように席に戻った。

「次は上の服脱いで」

「え、嫌だ」

「なんで」

 疑問ではない。
 拒否される理由が理解できない、という響きだった。

「絶対嫌だ。……この前みたいに誰か来るかもしれないし」

「なら、どこならいいの?」

「どこって……家とか?新垣の」

「無理」

 即答だった。
 もちろんどこならいいとかそういう問題ではないし、仲良くないクラスメイトの家になんて行きたくなかった。
 ただ自分の意見を聞き入れない姿勢に腹が立った。

「はぁ?そっちの頼みのくせに……こっちだって無理だよ」

 沈黙が落ちる。

 新垣は、じっとこちらを見た。
 何かを測るように。

 やがて、鞄を持ち上げる。

「じゃあ美術室」

 振り返らないまま歩き出す。

「あそこなら誰も来ない。部員、俺一人だし。鍵もある」

 拒否する隙がなかった。
 ついてくることを前提にした歩き方。

 本来なら考えるべきなにかを考える前に、
 身体がその背中を追っていた。


 美術室の電気が点く。
 カーテンが閉められる。
 扉が内側から施錠された。

 かちり。

 逃げ道が消えた音。

 新垣は椅子に座り、スケッチブックを開く。

「はい」

 準備はできた、という意味だろう。

 中川は立ったまま動けない。

 ここまで来てしまった。
 自分の意思で。

 シャツのボタンに指をかけたまま止まる。

 新垣は何も言わない。
 ただ待っている。目を逸らさずに。

 なんか言えよ、と思う。

 命令でも何でもしてくれたら、言い訳できるのに。
 無理やりなんだって。
 仕方ないんだって。

 自分から脱ぐなんて、
 見られることを望んでいるみたいじゃないか。

「あのさ……やっぱり脱ぐのは無理」

 新垣の眉が、ほんの少し寄る。

「……でも、これぐらいなら」

 シャツの裾を持ち上げる。

 へその上まで、肌が露わになる。

 それ以上は見せない、という抵抗。
 譲歩ではなく、拒絶のつもりだった。

 なのに。

 新垣の目が――はっきりと輝いた。

「それ、いいね」

 薄く笑う。

「そっちの方がいい」

 手のひらが一気に汗ばむ。
 顔に血が集まり、耳まで熱くなる。

 喜ばせてしまった。
 まるで罠にかかったみたいだった。

 これ、脱ぐより恥ずかしいんじゃないか。

 指先が震える。
 震えているのに身体中から汗がじわりと滲む。

 世界がぐらぐらと揺れているみたいだった。

 その中で、新垣の視線だけがはっきりしている。

「そんなに恥ずかしいの?」

 なぞるような声音。

 気づくと呼吸が浅くなっていた。
 抑え込んでいた身体の反応が、さらに意識される。
 悟られたくない。
 悟られたくないのに。

「泣いたりはしないよね」

 睨みつける。

 新垣は──嬉しそうに笑った。

 ぞっとするほど。

「これが最後だから。これ以上はもう何も言うこと聞かないから」

 宣言のつもりだった。
 自分への言い聞かせでもあった。

 新垣は返事をしない。

 ただ、鉛筆を走らせる。

 紙を擦る音だけが、静かな部屋に響く。

 描かれている。
 自分が。
 この姿で。

 それを意識すると、身体が言うことを聞かなくなる。

 だから、必死で別のことを考える。

 やがて鼓動が少し落ち着き、深く息を吸う。

「あのさ……他の人も描いたりするの?」

「……描くよ。たまに」

「ふーん」

「嫌なやつの顔とか描いて、ぐちゃぐちゃにしたりする」

 さらりと言う。

「え……」

「中川くんのは、そういうのじゃない」

 じゃあ、どういうの?

 聞けない。
 聞いたら何かが決定的に変わる気がした。

 再び、鉛筆が走る。

「……こういうの、他の人にはやらない方がいいと思うよ」

 おそるおそる言う。

 視線がぴたりと合う。

「あ、違っ……俺はもうしないけど……その……」

 言葉がまとまらない。
 言いながら、また体温が上がっていく。

 首筋を汗が伝う。

 新垣が、ふっと笑った。

「やっぱり面白い」

 鉛筆が止まる。

 静かに、確かめるように言う。

「恥ずかしいことってさ、同時に気持ちいいよね」

 シャツを掴む手に力が入る。

「本当にやめたいなら、もうシャツ下ろしていいよ」

 新垣は視線を外さないまま言った。

「……でも下ろさないでしょ」

 図星だった。

 逃げるつもりなら、ここへ来ない。
 服を掴んだまま立ち続けたりしない。

 新垣は何もしていない。
 ただ見ているだけだ。

 それなのに──

 どうして自分は、こんな姿で立っているんだろう。

 やめろ──

 そう思うのに。

 手が、下ろせない。

 新垣が静かに言う。

「ほら」

「ちゃんと見せて」

 命令でもないのに。

 中川は──
 シャツをさらに少しだけ持ち上げた。

👉 お得な情報をスワイプしてチェック

今月のオススメ漫画

🐈応援よろしくお願いします

🐈QRからチップを送る

-オリジナルBL小説
-, ,