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オリジナルBL小説

壊したのはお前だ 第5話|BL小説

 見られている。

 視線が、肌の上をゆっくりとなぞる。

 触れていないのに、触れられているみたいだった。

 中川は、シャツを掴んでいるのとは反対の手で第一ボタンを弄ぶ。指先が落ち着かない。

「新垣……全部脱ぐ?」

 顔を上げると、新垣はじっとこちらを見ていた。鉛筆は止まっている。

 何か言いかけて、言葉を飲み込む。

 その一瞬の沈黙の中で――頬を、温かいものが伝った。

「なんで泣くの?」

「泣いてない」

 すぐに袖で拭う。けれど次から次へと溢れてくる。

「……嫌だった?」

「……分からない」

 本当に分からなかった。

 怖いのか。
 恥ずかしいのか。
 期待しているのか。

 自分を俯瞰すればするほど、涙は止まらなくなる。

 ──馬鹿だ。惨めだ。最低だ。

 こんなはずじゃなかったのに。

 膝が崩れ、床にぽたりぽたりと雫が落ちた。

 視界の端に、新垣の制服のズボンが映る。

 顔を上げると、新垣は肩を揺らして小さく笑った。

 喉の奥で鳴らすような、押し殺した笑い。

 ──本当は、こんな姿、誰にも見られたくなかった。

 差し出されたティッシュで鼻をかむ。赤くなった目で見上げると、今度は笑っていなかった。

 ただ、真剣に見ている。

 その視線に耐えきれず、顔を逸らす。

「……そんなに見んなよ」

「全部見てほしかったんじゃなかったの?」

 息が止まる。

「違う……!」

 美術室に沈黙が落ちる。外は薄暗くなり始めている。

 きっと何も違わなかった。

 みんなが簡単に渡れる平均台を、落ちないように両手を広げて必死に歩く自分。

 最初からその平均台を避けて通る新垣。

 どこかで、似ていると思っていた。

 でも違う。

 自分は、落ちないように踏ん張る方を選んだ。

 それでも。

 そんな新垣にだけは、全部見せてもいい気がしていた。

 見てほしかった。
 分かってほしかった。
 
 沈黙を破ったのは、新垣だった。

「触っていい?」

 拒否の言葉が浮かぶ。

 でも、それを言えば終わる気がした。

 喉が上下する。

 声は出なかった。

 新垣が、ほんの一瞬だけ躊躇う。

 それから、ゆっくりと近づいた。

 呼吸がかかる距離。

 手が伸びる。

 首筋に触れた。

 びくり、と身体が跳ねる。

 冷たい。

 驚くほど冷たい指先。

 そのくせ、はっきり分かるくらい震えていた。

 迷いのない顔をしているのに。

 喉が上下するのが見える。呼吸がわずかに荒い。

 ――ああ。

 こいつも分からないんだ。

 自分が、自分たちがどうしたいのか。

 そう思った瞬間、少しだけ安心した。

 俺だけじゃない。

 手の震えも、呼吸の荒さもどちらのものだかわからなくなる。

 新垣の指が、シャツのボタンに触れる。

 一つ、外れる。 

「待っ……」

 止めようと思えば簡単に止められる。

 でも。

 止めたくないのかもしれない。

 シャツが肩から滑り落ちる。

 露わになった肌に空気が触れ、鳥肌が立つ。

 これ以上はダメだ。

 そう思うのに、身体は動かない。

 腕も脚も声も全部、新垣に預けてしまったみたいだった。

 新垣の視線が、肌をなぞる。

 見られている。

 それはスケッチブック越しに見られているよりも、もっと丁寧に。
 渡されたものを、確かめるみたいに。

 次の瞬間。

 指先が、腹に触れた。

「っ……!!」

 声にならない息が漏れる。 

 ただ触れただけなのに。

 指はそこにあるまま離れない。

 押しもしない。
 撫でもしない。
 ただ触れているだけ。

 それなのに。

 くすぐったいような感覚が皮膚を通って奥まで落ちてくる。

 熱い。

「……思った通り」

 低く呟く。

「敏感だね」

 指が、わずかに動く。

 腹筋の輪郭を、ゆっくりなぞる。

「っ、ぁ……」

 自分の声じゃないみたいだ。

「恥ずかしいね」

 耳元で囁く声も、かすかに震えている。

「気持ちいいね」

 否定したくても、身体が正直すぎる。

「でもさ、中川くんは本当はもっと色んな人に見られたいんでしょ?こういう姿」

 その言葉で、はっとした。

「……嫌だ」 

 震える声で言う。

「こんなの誰にも見られたくない。……新垣にしか、見られたくない」

 言ってから、自分で息を呑む。

 新垣の目が、はっきりと揺れた。

 新垣が体重をかけ、床に押し倒される。

「やめて」

 今度は、はっきり言えた。

「それ以上……やったら」

 声が途切れる。

 どうなるのか分からないから、怖い。
 自分にとっても。たぶん新垣にとっても。

 新垣は、数秒だけそのまま固まっていた。

 それから、ゆっくりと身体を離す。

「分かった。今日はここまで」

 まるで授業を終えるみたいな口調だった。

 新垣は立ち上がり、スケッチブックを閉じた。

 外はもう暗い。

 扉が開く。

「帰ろう。鍵閉めないとだから先に出て」

 中川はしばらく動けなかった。

 腹に残る感触が消えない。
 耳元の声が離れない。

 怖かった?
 嫌だった?
 恥ずかしかった?

 それよりも。

 ――もう一度、と思ってしまった。

 その事実に気づいた瞬間。

 踏ん張って立っていた足元が崩れた。

「中川くん?」

 自分が望んだから、新垣が壊した。
 もう、元には戻れない。

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