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あまあまな後輩×先輩♡
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オリジナルBL小説

百合の匂い 第8話|BL小説

 塾に通いはじめてから、彼の家へ寄ることはなくなった。
 どちらからそうしようと言い出したわけでもない。ただ、気づけばそうなっていた。
 距離が空いていくことに、佑は抗わなかった。ただ「仕方ない」と思った。 
 人は佑に近づき、そして離れていく。
 それはずっと繰り返されてきたことで、今さら驚くようなことでもなかった。
 引き留める術を知らなかったし、引き留めたいと強く願ったこともない。
 そういうものだと、いつのまにか思うようになっていた。

 彼と最後に言葉を交わしたのは、卒業式の日だ。
「佑くん、佑規と一緒に写真、撮ってもらえん?」
 彼の母に声をかけられ、促されるまま並ぶ。
 そのとき初めて、以前より身長差が縮まっていることに気づいた。
 少し照れくさくて、どこに視線を置けばいいのかわからないままシャッターの音を待つ。
「ありがとうね。家でも佑くんの話ばっかりしてたから」
 そう言われて佑規のほうを見ると、ちょうど目が合った。
 どちらからともなく、すぐに視線を逸らす。
「……ばいばい」
 短いやりとりだけをして、それきりだった。
 時折ふと思い出すことはある。しかしそれはもう、ただの思い出としてだ。
 少しセンチメンタルな気分になることはある。
 けれど「もしあのときこうしていれば」と考えることはなかった。
 佑は、ずっと前から薄々感じていた。
 気づけば相手の視線が自分の動きひとつで揺れるようになる、その瞬間を何度か経験していた。
 それが嬉しくて、その人が求める自分でいることは、苦ではなかった。
 怒りも、依存も、期待も、拒まずに受け取ってきたのだと思う。
 その結果として、人が自分のそばから離れていくことも、木の葉が落ちるみたいに自然な流れとして受け止めてきた。
 そういうものだ、と。


 終業後、いつものように更衣室で着替えていると、修の姿が見当たらなかった。
 窓の外を見ると、ベンチに並んで座る二人が見える。笠松さんと修だ。
 何か話しているらしく、二人とも笑っている。
 不意に、修と視線が合った。
 けれど修は、いつものように手を振らなかった。
 ほんの一瞬こちらを見ただけで、すぐに笠松の方へ顔を戻す。
 胸の奥が、すっと冷えた。
 息を吸うのが、一拍遅れた。
「──やば」
 思わず零れた小さな声に、自分で驚いた。
 佑は、こういう感情を抱かないはずだった。
 誰かが自分から離れていくことにも、他の誰かを選ぶことにも、慣れている。
 そういうものだと、わかっている。
 それなのに。
 修が遠ざかる光景を想像しただけで、胸の内側を直接掴まれたみたいに息が詰まった。
 ──どうして。
 問いは浮かぶが、答えは出ない。

 着替えを終え、更衣室を出ようとしたところで、背後から声をかけられた。
 窓から顔を出した修が、やっとこちらを見ていた。
「佑、話あるから、ちょっと待ってて」
 休憩室でスマートフォンを眺めながら待っていると、「お待たせ」と言って修が近づいてきて、軽く肩に手を置いた。
「今日バスで来たんやろ?車、乗ってけよ」
「……うん。ありがとう」
 返事が出るまで、ほんの少し間があった。
 修はその間を見逃さず、覗き込むように佑の顔を見る。
「なぁ、佑。さっきちょっと拗ねてたやろ。無視されたと思った?」
 図星だった。
「いや、別に。前に笠松さんのこと苦手とかって言ってたけど楽しそうに話してたから……それはむしろ良いことやと思うし」
 声がかすれる。
 誤魔化すように言った言葉に、修は一瞬だけ目を伏せ、それから小さく笑った。
「まあ、いいけど」
 少し間を置いて、思い出したように続ける。
「……で、花火大会。行くやろ、俺と」
「……え?」
「どうせお互い彼女おらんし、夏は暇やろ」
 こちらが何も言っていないのに彼女がいないと決めつけるとはどういうことか、と加川のことが頭に過ぎったが一瞬だった。
 それよりも胸に渦巻いていた冷たいざわめきが、ゆっくりほどけていくのがわかった。
「行きたい」
 そう答えた瞬間、修がわずかに照れたように口元を緩める。
「じゃ、決まりな。俺、花火見るのに丁度いいスポット知ってるから」
 その声は、どこか嬉しそうで。
 佑の胸の奥に、静かに灯がともるようだった。

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