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あまあまな後輩×先輩♡
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オリジナルBL小説

気になる彼の中には 第1話|BL小説

 あれ、あいつの身体からなんか出てね?

 そう思ったのが昨日。

 そしてさっきの授業中。

 目の前の席に座る伊坂の制服のシャツが少しめくれて、その隙間から触手みたいなものがひょこ、と顔を出した。

 いや、顔じゃないな。

 蛸の腕のような吸盤がある。腕か。

 しかも──こっちに向かって、手を振るようにうねっている。

 一瞬、息が止まった。

 思わず周りを見渡す。

 けど、誰も気づいていない。

 ノートを取ったり、ぼんやり黒板を見たり、いつも通りの授業風景だ。

 どうやら、見えているのは俺だけ──。

 もう一度、伊坂の方を見る。

 触手がまたひょこ、と顔を出す。

 ──俺を見ている?

 そう思った瞬間、ぞわりと背筋が粟立った。

「……ちだ」

「町田」

 名前を呼ばれて顔を上げると、伊坂がこちらを見ていた。

 思わず「うおっ」と声が出る。

「次の小テストのさ──って、なにその反応。何か良からぬことでも考えてた?」

 目を細めて、にやりと笑う。

 いつもの伊坂だ。

 そのはずなのに、さっき見たもののせいでどこか違うものに見えてしまう。

「いや……良からぬことっていうか」

 少し迷ってから、口に出した。

「なんか、お前から変なの生えてね?」

 言った瞬間、伊坂の表情が固まった。

 完全に「こいつ何言ってんだ」って顔だ。

「あ、いや」

 慌てて言い直す。

「そういう夢を見たって話」

 言いながら、ああ夢じゃないなと思う。

 だって今も、伊坂の背中側──シャツの隙間から、さっきの触手がひょこひょこと動いているからだ。

 俺がそこを見ていると、伊坂がはっとしたように振り返った。

 その瞬間、触手はすっと引っ込む。

 まるで、隠れるみたいに。

「町田って霊感ある?」

 伊坂が、鋭い目でこちらを見る。

 軽口をたたくような空気じゃない。

 見たことのない顔だった。

 思わず唾を飲み込む。

「ないけど。それ、なに──」

「死ぬんだよ。近いうちに」

 その言葉はゆっくりと脳内を一周した。

 全く意味が分からない。

 でも、伊坂の表情から冗談の類ではないと思った。

「……マジ?」

 それしか言えなかった。


 昼休み、伊坂は最近どこかへ消える。

 あの触手と関係がある気がして、俺は弁当を持って後を追った。

 伊坂は購買で、パンを五種類、サンドイッチを一つ、おにぎりを三つ抱えて、階段を降りていく。

 細い身体に似合わない量だ。

 あれ全部食うのかよ。

 ――それとも、食わせてるのか。

 やっぱり伊坂は触手と無関係とは思えない。

 まだ俺の知らない伊坂がいる。

 そう思うと、妙に胸がざわついた。

 伊坂が体育館倉庫に入ったのを確認してから、俺はそっとドアを開けた。

 中は薄暗い。

 先に入ったはずの伊坂の姿は見えなかった。

「伊坂……?」

 声を出した、その時。

 倉庫の隅、古いマットが積まれた陰から、伊坂が立ち上がった。

「町田!?」

 驚いた顔。

 けど、それより先に、目に入ってしまった。

 ──触手。

 無数の触手が、伊坂の腹に開いた巨大な“それ”を囲うようにうねっている。

 ……穴?

 いや、口だ。

 ヒマワリの種みたいに並んだ無数の歯が、パンを噛み潰している。

 ぬちゃ、と嫌な音がした。

 吸盤のついた触手が、器用に食べ物をつかんで、そこへ運んでいく。

 現実感がなさすぎて、足が一歩後ろに下がる。

 その瞬間。

「ダメだ!」

 伊坂の焦った声が響いた。

 気づけば、視界が揺れていた。

 尻餅をついた俺の上に、伊坂が覆いかぶさる。

 ぬるり、とした感触が頬に触れる。

 それはただ触れただけじゃなく、確かめるみたいにゆっくりと頬をなぞった。

 あの触手だ。

 頭を包み込まれると、目の前には不気味な口が開いていた。

 ──死ぬんだよ。

 さっきの言葉が頭をよぎる。

 俺はぎゅっと目を閉じた。

 終わる、と思った。

 ポタ。

 何かが、顔に落ちる。

 ゆっくり目を開けると、口の奥、管みたいなところから透明な液体が垂れていた。

 その瞬間、身体の力がふっと抜けた。

 怖いはずなのに。

 逃げなきゃいけないのに。

 頭がぼんやりして、呼吸が浅くなる。

 心臓が、変な速さで鳴っている。

 身体が、じわじわと内側から熱を持って──

 気持ち悪いはずなのに、その感触がやけに心地良い。

 身体が、おかしい。

 しばらくして、触手が離れた。

 伊坂が身体を起こす。

 息が、少し荒い。

「……なにこれ。どういうことだよ」

 なんとか声を出す。

「お前、取り憑かれてんの?」

「俺にも分からない」

 伊坂は首を振った。

「帰り道に、赤いビー玉を拾ったんだ」

 ぽつり、と言う。

「持ったら、脈打ってるみたいで。なんか、手放せなくて」
 
 そんな怪しげなもん拾うなよ。
 思ったけれど口は挟まないことにした。

「家に持って帰ったんだけど、次の日、割れてて──気づいたら、これがいた」

 伊坂は立ち上がり、腹のあたりをちらりと見る。

 今、触手は出てきていない。
 シャツの中にどうやって収まっているんだろうか。

 俺は伊坂の腹から目が離せないまま、差し出された手を握って、身体を起こす。

「さっき伊坂が“死ぬ”って言ってたの、俺がこいつに殺されるってことか?」

 俺が言うと、伊坂は少し黙ってから首を振った。

「たぶん死ぬのは俺の方」

「は?」

「日が経つごとに、コイツの感覚が何となくわかるようになってきた。段々、その感覚が大きくなって……
そのうち、俺じゃなくなる日が来るんじゃないかって、なんとなくだけど、そう思うんだ」

 その言葉に、胸の奥がざわついた。

 怖い、というより。

 ──それでいいのか、って。

 そんな考えが一瞬よぎって、顔が歪んだ。
 
「……怖いだろ」

 伊坂はそう言って無理矢理笑うように口角を上げた。

「まあ、こんなの聞いたことも見たこともないし、実際そうなるかは分かんないんだけど」

 沈黙が落ちる。

 何か言わなきゃいけない気がして口を開いたものの、言葉は出てこない。

「あと」

 伊坂が続ける。

「俺、コイツの感覚、なんとなく分かるって言ったでしょ」

 伊坂は少し顔を赤くした。

「コイツ、お前のこと好きみたいだ」

「は?」

 一瞬、言葉を探すように下を見て、それからはっきりと言った。

「なんていうか、性的に」

 その言葉に反応するみたいに、
 伊坂のシャツの下で触手がもぞもぞと動いた。

 ぞわ、と背筋が震えた。

「……マジ?」

 ちょうどその時、予鈴が鳴った。

 それどころじゃなかったから、弁当はまだ一口も食べていない。

「……教室、戻るか」

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