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オリジナルBL小説

壊したのはお前だ 第6話|BL小説

 今まで、誰かに振り回されることなんてほとんどなかった。

 そもそも誰かと深く関わろうとすること自体、面倒で煩わしくて、自分には向かないと思っていた。

 美術室の鍵を取り上げられてから、そこには入れなくなった。

 好き勝手に使っていたのがバレたのか、新しい校長の指示か。理由はどうでもいい。ただ、あの場所がなくなった。

 あれ以来、中川とは以前と同じ距離に戻った。

 教室で、ただ眺めるだけ。

 新垣は舌打ちした。

 あの日、手が震えていた。

 なぜ震えたのか、説明はできない。

 高揚していた。
 何をしてもいいと思っていた。

 でも、本当は――何がしたいのか分かっていなかった。

 理解が追いつかないまま、本能で触れた。

 震えた手で触れたとき、中川の感情がそのまま流れ込んできた気がした。

 興奮している。

 自分の手で。

 それは、眩暈がするほどの快感だった。

 ――新垣にしか見られたくない。

 あの瞬間。

 気づけば中川を押し倒していた。

 あれは本当に自分の意思だったのか、分からない。

 そして、すぐに拒絶された。

 身体は止まった。

 止められて、少しだけ安堵していた自分がいた。


 今日も中川からは何もない。

 新垣はもう一度舌打ちした。

 休み時間。

 中川がトイレに立つのを見て、少し遅れて後を追う。

 隣に並ぶと、中川は一瞬だけ驚いた顔をして、すぐに視線を逸らした。

「今日の放課後、うち来てもいいよ」

 俯いたまま、返事はない。

 最近の中川は、放課後すぐ帰るか、誰かと一緒にいる。二人きりになれる機会はほとんどない。

 手を洗いながら、横目で様子を窺う。

 中川が小さく息を吸う。

「……行くよ」

 それだけ言って、足早に出ていった。


 放課後。

 教室が静かになるのを待って声をかける。

「中川くん、行こう」

 帰り道、会話はない。

 見られるのを嫌がるだろうと思い、新垣は少し早足で歩く。

 後ろから、きちんとついてくる足音。

 いつもより早く家に着いた。

 玄関で咳き込むと、リビングから母親の声が飛んできた。

「大丈夫? 薬飲んだの?」

 そして人影に気づく。

「え?お友達?」

 嬉しそうな声だった。

 少し、申し訳ないような気持になって顔を逸らした。

「同じクラスの中川くん。部屋の中、絶対入ってこないで」

「でもお茶ぐらい──」

「いらない」

 浮足立つような母の言葉を遮って、靴を脱ぎ切れずに立ち尽くす中川を二階へ促す。

 部屋に入ると、中川は静かに見渡した。

 本当は誰も入れたくなかった。

 母親に友達が出来たんだと、期待もさせたくなかった。

 でもそれよりも、彼をここに呼ばなければならない理由があった。

 呼ばなければ、落ち着かなかった。

「部屋のものは勝手に触らないで」

 そう言うと、中川が振り向く。

「……この部屋に、俺の絵あるの?」

「あるよ」

「見せて」

「無理」

「なんで。勝手に描いといて見せないのは卑怯だろ」

 不満げな顔。

 新垣は肩をすくめる。

「本当に見たいの?絵を見るってことは俺のオナニーを見るのと同じことになるけど」

 そう言うと中川は黙って顔を歪ませた。

 こう言っておけば、もう見たいなんて言わなくなるだろう。

「新垣は俺のこと、好きなの?」

 今度は新垣が顔を歪ませる番だった。

「なんで。違うけど」

「だよね」

 部屋の中に沈黙が落ちる。

 新垣は、ここに呼んだ理由を思い出す。

「この前言ってたやつ……なんで俺ならいいの?」

 中川は少し考えてから答えた。

「学校の俺は素じゃないから」

 視線は床に落ちたまま。

「みんなの前では恥かきたくないし、ちゃんとした俺でいたい。でも、新垣の前ではそうじゃなくてもいいかなって思っただけ」

「それに……保健室でカーテンの中に隠れたとき、笑ってたでしょ」

 小さく笑う。

「あのとき、俺もちょっと楽しかった。非日常っていうか…」

 胸の奥が、静かに崩れる。

 これは、優越でも支配的な感情でもない。

 もっと面倒なものだと、分かっている。

 分かっているのに。

「今日は……描かないの?」

 中川が上目遣いにこちらを見る。

「あー…、うん」

 本当に全く、1ミリたりとも絵のことなんて頭になかった。

 ここに呼んだ目的はさっき果たされたはずだった。
 けれど、まだ──

 まだ帰ってほしくない。

 お互いに探り合うような間が生まれた。
 
「じゃあ、ベッドにもぐって遊ぼう」

 先に言葉を発したのは中川だった。
 彼から予想もしていなかった提案を受けて、新垣は一瞬狼狽えた。

「遊ぶって……無理。制服汚いし」

「脱げばいいじゃん」

 中川はシャツを脱ぎながら無邪気に笑う。
 子どもがプールにはいる前みたいに楽しそうに。

 シャツを捲り上げるのだけでもあんなに恥ずかしそうにしていたのに。

 そしてベッドに飛び乗った。

「新垣、来ないの?」

 それは無邪気なようで、少し妖艶な響きを纏っていた。

 そうだ。

 あのとき、止まったのは嫌われたくなかったからだ。

 拒まれて、安心した。

 これ以上踏み込まなくて済むと思った。

 なのに。

 なのにそんな風に呼ぶんだ。

 ここで行けば、もう前と同じ位置には戻れない。

 たぶん、壊れる。

 壊れるのは、きっと自分のほうだ。

 それでも。

 足は動いていた。

 きっと歪んでいる。

 最初から、ずっと。

 ベッドの軋む音が、小さく鳴った。

ーENDー

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